murasehisariの写真屋さん日記

学校アルバムの仕事をメインに街の写真屋さんでお仕事してるmurasehisariの日々是徒然日記です

近視の方の「遠方視力」

今日ご相談にいらした方は70歳代の女性の方で、眼科での処方箋を持って来店されましたが、どうも話がはじめはよくわからなかったのです。眼科さんで出してもらった処方箋はちゃんと測って調べてもらったけれど自分でここまででいいといって出してもらった度数で、先生にはそんな調べ方でメガネを作る人なんていませんよ、と窘められたのだそうです。でも本人希望で出た処方箋は現在使用中のものとほとんど変わらないけれど、左の度数だけそれも乱視が一段階弱いものでした。
処方箋は本人希望だけれど、メガネを作りかえるにあたっての説明は本人希望に沿っていなかった、といったらいいのでしょうか、眼科の先生の話ではちゃんと遠くの視力が出る目を持っているのにわざわざ度数を弱くして作るのはおかしい、中間や手元もある程度みたいというのなら遠近両用にすべきだ、といってそのテストもしたらしいんですがその時点では遠近両用のメガネを作るということは怖いという先入観と今までと同じメガネで十分と言う意識からご自分の選択肢に入っていなかったらしいんですね。
度数としては−2.00Dの近視に−1.00Dの乱視が縦方向に入っている(倒乱視)の目で、なるほどこの状態なら外に出かけるときやテレビを見るときはメガネが必要で手元を見るときや料理をする時はなくても平気、と言うのはわかります。たとえば70歳代の方で遠方視力が5メートル先のものがはっきり見える状態(両眼視力1.2)だとすると自前の調節力は計算上0.25Dですから近点距離は4メートル先ということになって、自前の調節力を駆使して1メートルだけ焦点が手前に持ってこれたということになります。参考記事:「年齢によりメガネの度数は変化するのか」http://d.hatena.ne.jp/k-hisari/20090223/1235394322 それをメガネをかけた状態で5メートル先じゃなくて4メートル先や3メートル先など自分の好みの距離に設定してしまえば、自前の調節力を利用して2〜1.5メートルくらい先に焦点を持ってくることは可能なんですね。食事会に行ってテーブルもはっきり見たいし人の顔も見たいとか、買い物に行って手前の商品も見たいし先の案内表示も見たい、そういったとき便利なようにすごく遠くじゃなくてちょっとそこまでくらいの距離にあわせてしまうことは出来るんです。
しかしこの場合なにが問題なのか、ですが、手前の焦点距離に合わせてある程度見えるようにしてしまうと、年齢に応じて遠くの見え方をかなり犠牲にしなくちゃならなくなる、と言うことが起こるんです。
この方の場合前回メガネを作っていただいたのは約10年前、60歳代の時でした。当時はある程度調節力も活きていたんでしょうか、0.8の視力を出すことで新聞の字を読むことくらいは出来た、と仰います。0.8まで出してたということはだいたい4メートル先にあわせたという感覚です。年齢別距離別加入度数表を元にした表によると、60歳代の方の調節力で平均すると1メートル先まで近点距離を持ってくることが出来ますので、0.8に合わせたメガネで40〜50センチを見ることは何とか可能だったと思いますが10年たった今ではそれもかなり難しいことになっているはずです。
一通りその調節力のことをお話して、眼科の先生がなにをおかしいといったのか、ご自分の希望はどうやったら満たせるのか、そのご希望を整理してウチの店でなにが出来るのかをお話しました。先生がおかしいといったのは年齢から来る調節力の低下でメガネの度数を抑えてしまうと遠くも近くも見えにくくなるという話だと理解できますし、それだからこそ遠くはしっかり視力を出しておくべきと仰ったんだと思います。ご本人はたぶんですが、お話を聞いていて10年前と今のご自分と見え方の状況は変わっていないと思ってらっしゃるんだと思いました。しかしちょっと先まで焦点が合わせられなくなってきたとか、最近はしょっちゅうメガネを外すようになったとか、中間から手元の見え方に変化が出てきているのは確かなようでした。それらをすべてクリアするには、やはり累進レンズを使っていただくのが一番良さそうですがメガネの使い方をお聞きしているとそれが最善ともいえないようです。
今日はお話をお聞きするにとどめて、こちらから次回十分お時間をとっていただいて再度視力の確認をすることと、その場合累進レンズを試していただくこと、もっと遠方視力の上がったメガネが作れるかどうかも調べさせていただくことを提案しました。
これは私の推察ですが、お客様は遠くがはっきりしなくて気になって眼科に行って、でも今までどおりの見え方にしてほしいとお願いして、ここの「今までどおり」と言う解釈が先生とお客様ではずいぶん違ったのではないか、と思うんですね。なのでその点をご自分でも考えていただくことにしたんです。本当に見たい距離はどこなのか、今までどおりにはならない状況だというのを良くご理解いただいて考えてほしい、とお願いしました。