murasehisariの写真屋さん日記

学校アルバムの仕事をメインに街の写真屋さんでお仕事してるmurasehisariの日々是徒然日記です

なぜ「非球面レンズ」なのか

社長の息子さん(と書くのも面倒なので、今後はT君とします)が眼鏡学校のスクーリングから帰ってきて、いろいろと覚えてきたことや新たに疑問に持ったことを話してくれる訳だけれど、その中に「どうして非球面レンズが出来なければならなかったのか」という疑問と言うか、これは話をしているとそれ自体の出来あがりについては特に疑問もなく、それが出来たことによってレンズが革新的に薄くなったことや周辺部のゆれ・ゆがみが少ないレンズが出来たことは理解しているし、度の強いレンズが必要な人が牛乳瓶の底のようなメガネをかけなくて済むようになった、それは全然OKなんだけれど、そもそも「何故非球面なのか」という、根本な疑問を持ったみたいでなんか話してても面白いなぁと思ってます。
実のところ、私はこの店に来て15年たっているしその前は眼科併設のメガネ屋でコンタクトレンズを担当していたわけだけれど、メーカーが販売しているレンズについてそれがいったいどういうもので、特徴はどうで長所短所はこう、というのは勉強したけれどももっと根本的な部分であるこの「何故非球面なのか」に関してはお恥ずかしいことに疑問に持ったことはなかった。もう20年以上前になるだろうか、初めて非球面レンズと言うものが発売されることになって、レンズが極端に低カーブ(フラット)で前に出っ張りのないレンズが出来たから、これでプラスレンズを外形指定(削る前のレンズを入れる枠の大きさに合わせてギリギリの大きさに指定して作ること 単純に丸にするのではなく楕円にすると極端に薄く出来る場合がある)するととんでもなく薄く出来るぞ、と当時勤めていた店の店長さんが話していたのを覚えているけれど、考えてみるとそのときにはまだやっと屈折率1.60素材が出てきたところだったのだから今販売しているものよりも厚みはあっただろうなぁ。まぁ、私の認識度もその程度のもので、非球面レンズ=薄型タイプのフラットレンズだと思っていたんですね。それからだんだんと覚えていくこともあって、収差や周辺部のゆれ・ゆがみを解消する為に設計されているレンズであり、ただ単に薄いレンズだというわけではないというのも理解出来てきたのだけど、T君が疑問として出してきたのは「何故非球面にしていかないとそれらが解消されないのか」ということなんで、うーん、と考えているのです。<前置きが長くなったな(汗)

メガネレンズは厚いよりも薄いほうがそりゃ見栄えがいいし度が強くなると厚いレンズになるという常識を解消できる。レンズを薄くする為には低カーブレンズにすればいいわけだけれど、そうすると収差の問題が出てくる。それを解消する為に一定のカーブではなくてその収差を解消する為のカーブを作り出して「収差を打ち消す」と言うことをするのが非球面設計なんですね。この非球面というのは何も「平らである」と言う意味ではなくて「球面じゃない」と言う意味なんです。意外に、問屋の営業さんもこの点は詳しく知ってる人が少なかったです(レンズメーカーさんは別ですが)
薄くする為には屈折率を上げるということも必要なんだけれど、高屈折率になればなるほどアッベ数が低くなる傾向にあって、となると色収差が大きくなる。低カーブで高屈折率だと収差が倍増し・・・まではそりゃ行かないだろうけど、そのままだとまともに結像しないなんてこともありえる。光学中心から外れたところで点が点として結像しないことを「非点収差」といい、像が楕円になったり線状になったりすることを言うし、光学中心でないところではまともな度数が出てこないことがあってずれればずれるほどマイナス寄り又はプラス寄りになって像が湾曲する(ゆがむ)のを「パワーエラー」といいます。そういったのをどれだけ修正できるかが「いい設計の非球面レンズ」であって、非球面レンズであればどこのメーカーのレンズでもこの修正が同じようにうまくいってるとは限らないので、かなり微妙な世界ではあるけれど見え方の差が出てくることはありえます。当然(と言ってしまっては語弊があるけれど)価格の高いレンズはこの非点収差もパワーエラーもかなりの精度で理想的な状況で修正されているので、快適な装用感が得られます。なぜなら、その価格には今まで研究開発してきた経験と問題解消の為の工夫が盛り込まれているわけで、むやみに高くなってるわけではないのです。値段の安い非球面レンズはこういったレンズの前世代のものだったり、2世代3世代前の設計だったりするわけです。
余談ですが、度数や設計によっては非球面レンズよりも球面レンズの方がこの収差が少ないなんてこともありえます。また弱い度数だと球面・非球面の差がほとんどない場合もあります。非球面レンズを使えばどんな度数でも快適な視界が得られる、と言うのは一概には言えません。

と、偉そうに説明していますが私だっていろいろ勉強したり調べたりした成果でもってこうお話できるわけなんだけど、それよりもこういったメーカーサイトでの説明を読んだほうがもっとわかりやすいかもしれません。特に遠近両用レンズは累進帯があるからどうしてもパワーエラーは避けられない話で、その解消にこういった技術を使っていますと図解入りで説明しています。
セイコー快適視生活応援団/累進屈折レンズスーパーP−1」http://www.kaiteki-eye.jp/modules/weblog/details.php?blog_id=73

ただ、レンズを選ぶ時にはこんなことまでは説明しません。ていうか、非点収差やパワーエラーがどこの点でどのくらい出ているのかなんて、たぶん製品開発をしている段階でしか問題にされないでしょうからその数値が販売店サイドに公開されるなんてことは通常ありません。だから余計に「何故これが必要なんだろう」とT君は考えたんだろうな、それまで聞いたことのなかった話だろうから。おかげで私も今になって勉強しています。面白いです。

ではレンズを選ぶ時の知識としてはなにが必要なのか、それはウチの店のサイトでページを作ってありますので良かったら参考にしてください。
「眼とメガネレンズの基礎知識」http://www13.plala.or.jp/belleseiko/meganekisochishiki1.htm